便箋を広げて万年筆のキャップを外し、相手の顔を思い浮かべながら一文字ずつ書きつづった時間。書き終えた便りを封筒に入れ、切手を貼ってポストに投函すると、あとは返事が来るのをそわそわと待ったものです。
いまは画面に指を走らせれば、伝えたい言葉がその場で相手の手元へ届きます。便りの届け方は大きく変わりましたが、誰かを思って言葉を選ぶ気持ちは、今も昔も変わりません。便箋やはがき、年賀状にまつわる思い出を、ご家族で一緒に語り合ってみませんか。
便箋に手書き/画面で文字を打つ
かつては文房具店で気に入った便箋や封筒を選ぶところから手紙が始まりました。机に向かって万年筆やボールペンを握り、罫線に沿って一字ずつ書き進めます。書き損じると最初から書き直し、インクの消せない万年筆では下書きをしてから清書する人も多くいました。便箋の枚数が増えるほど、相手に伝えたいことの多さが封筒の厚みに表れたものです。
今はスマートフォンやパソコンで文字を打ち、打ち間違えてもすぐに直せて、送り直しも気軽にできます。
ポストに投函して数日待つ/すぐに届く
赤いポストまで歩いて行き、投函口に封筒を滑り込ませると、ことりと小さな音がしました。遠くの町へ宛てた手紙は届くまで何日もかかり、返事が来るまでの数日間を指折り数えて待ったものです。郵便受けを何度ものぞき、自分宛ての封筒を見つけたときの弾むような気持ちは格別でした。
今はメッセージを送れば、ほんの数秒で相手のもとへ届き、読んだという印がつくこともあります。
拝啓・敬具と時候のあいさつ/短い一言
「拝啓、朝晩はめっきり涼しくなりました」といった季節の言葉から書き起こすのが、手紙の作法でした。頭語と結語の組み合わせを間違えないよう、文例集や手紙の書き方の本を手元に置いた方も多いでしょう。相手の体調を気づかう一文を添え、最後は自分の名前で結びます。形式を整えること自体が、相手への礼儀でもありました。
今は「元気にしてる?」の一言でも、十分に近況やこちらの気持ちが伝わります。
年賀状や暑中見舞い/メッセージやスタンプ
年の暮れには家族総出で年賀状に向かい、版画やプリントごっこで一枚ずつ刷った絵柄を楽しみました。宛名を筆ペンで書き、ひとことを添えて、元日に届くよう年内に投函します。夏には暑中見舞いのはがきで、遠くの友に近況を伝えたものです。一枚一枚に相手の顔を思い浮かべる時間がありました。
今はあけましておめでとうのスタンプ一つでも、新年のあいさつがすぐに届きます。
切手を選んで貼る/送信ボタンひとつ
記念切手の美しい図柄に見入ったり、切手収集を楽しんだりした方もいるでしょう。封をした封筒の隅に、舌で湿らせた切手をきちんとまっすぐ貼りました。料金が足りるか封筒を秤にのせて確かめ、不安なときは郵便局の窓口に持ち込んだものです。重さが少し超えると切手を一枚足しました。
今は切手も投函もいらず、画面の送信ボタンをひとつ押すだけで、言葉がそのまま相手へ旅立ちます。
手書きの文字に人柄/絵文字や写真を添える
力強い字、丸っこい字、几帳面に整った字。封を開けて筆跡を見ただけで、誰からの便りかすぐに分かりました。便箋にそっと押し花を挟んだり、余白に小さな絵を描き添えたりする人もいました。同じ言葉でも、書いた人の手の運びがそのまま紙に残ります。
今は笑顔の絵文字や、撮ったばかりの写真を添えて、その場の気持ちをいきいきと伝えられます。
便りの届け方は、手書きの一文字からひと押しの送信へと、長い年月をかけて移り変わってきました。それでもどちらの便りにも、相手を思って言葉を選ぶ温かさが変わらず宿っています。押し入れにしまった古い手紙や、色あせた年賀状の束を引っ張り出してみると、当時の暮らしや人の顔がよみがえってくるかもしれません。ご家族で、便りにまつわるその頃の思い出を語り合ってみてはいかがでしょうか。
便りにまつわる思い出や、古い手紙にこめられた言葉は、ご家族の歩みそのものです。語り合ったお話を一冊の記録に書きとめておけば、その時々の暮らしを、次の世代へとそのまま手渡していけます。