まっさらに洗い上げた木綿のシャツやハンカチ。それにぴしっとアイロンをかける瞬間は、暮らしのなかの小さな誇りでした。けれど、その一枚を仕上げるまでの手間は、今とはずいぶん違っていました。中に炭を入れて熱する炭火アイロンや、鉄のかたまりのような火のしを使っていた時代を、覚えていらっしゃる方も多いはずです。
熱い、重い、そして焦がさないように気を配る。アイロンがけは、ちょっとした真剣勝負でもありました。今はスイッチひとつで温まり、蒸気がふわりと出て、吊るしたまま手早くしわを伸ばせます。道具の移り変わりをたどりながら、あの頃のアイロンがけの情景を一緒に思い出してみましょう。
熱源=炭火・火のしから電気へ
炭火アイロンは、上のふたを開けて中に赤くおこした炭を入れ、金属の底が熱くなるのを待って使いました。火のしは、柄のついたお椀のような鉄の器に炭火を入れ、その底で布を押さえていく道具です。どちらも火をおこす手間があり、使い終わったあとの後始末もありました。
やがて差し込むだけで温まる電気アイロンが家庭に広まり、炭を用意する必要はなくなっていきました。
湿らせ方=霧吹きからスチームへ
口に含んだ水をぷっと吹きかけたり、ガラスの霧吹きでしゅっと湿らせたりして、生地をしっとりさせてから当てたものです。頑固なしわには、固く絞ったぬれ手ぬぐいを布の上に重ねて、その上からぐっと押さえることもありました。
今のアイロンはタンクに水を入れておけば、ボタンを押すだけで底面から蒸気が噴き出します。霧吹きを片手に持ち替える動作が、そのまま道具のなかに組み込まれたようなものです。
重さ=ずっしり鉄の道具から軽いコードレスへ
炭火アイロンや火のしは全体が鉄でできていて、持ち上げるだけで腕にこたえる重さがありました。もっとも、その重みがあるからこそ生地をしっかり押さえられ、体重をかけずともしわが伸びるという利点もありました。
今のアイロンは軽い素材でできていて、台に置けば自動で充電され、使うときはコードから外して手に取るコードレス型も増えました。コードが手元にまとわりつかず、軽く動かせるのはありがたいものです。
温度=勘だのみからダイヤル調節へ
炭火アイロンの底がどれくらい熱いかは、手をかざしたり、当て布の切れ端で試したりして確かめるしかありませんでした。うっかり熱くしすぎて、木綿にうっすら茶色い跡がついてしまった、そんな苦い思い出を持つ方もいらっしゃるでしょう。
今は「綿・麻」「絹・化繊」といった目盛りのついたダイヤルを回すだけで、生地に合った温度に保ってくれます。焦がすまいと張りつめていた気持ちが、ずいぶんやわらぎました。
かけ方=アイロン台からスチーマーへ
洗濯物がたまると、アイロン台を出してきて、ハンカチやシャツを一枚ずつていねいにかけていく。折り目を合わせ、襟を整え、片づけまで含めてひと仕事でした。
今は、衣類をハンガーに掛けたまま蒸気を当てる衣類スチーマーが登場し、出かける前にさっと気になるしわだけ伸ばす、という使い方も広がりました。とはいえ、台に向かってじっくり仕上げる時間には、今も変わらない心地よさがあります。
仕上げ=糊付けと形状記憶シャツ
洗い張りした木綿に洗濯糊をつけて干し、パリッと張りのある襟や袖口に仕上げるのは、家事の腕の見せどころでした。糊がよく効いた白いシャツには、きりっとした清潔感がありました。
今はしわになりにくい形状記憶加工のシャツもあり、洗って干すだけでそれなりに整います。それでも、大切な一枚にはやはり手をかけたくなるもので、アイロンがけという手わざそのものは、道具を替えながら今も暮らしのなかに残っています。
同じ「アイロンをかける」でも、炭をおこすところから始めた時代と、スイッチひとつで蒸気が出る今とでは、ずいぶん景色が違います。焦がしてしまった失敗談や、パリッと糊の効いたシャツの手ざわり。ご家族やお友だちと、それぞれの「わが家のアイロンがけ」を語り合ってみると、思いがけない思い出話に花が咲くかもしれません。今日はどんな一枚を思い出されたでしょうか。