洗濯機のふたを開けて衣類を入れ、洗剤を落としてボタンを押す。あとは待つだけ。今ではあたりまえのこの光景も、昭和の家ではずいぶん様子が違っていました。たらいに水を張り、洗濯板を立てて、固形石けんでゴシゴシとこすり洗い。一枚一枚に手間と時間をかけていた時代がありました。
洗濯は毎日の家事のなかでも、とりわけ力のいる仕事でした。井戸端や勝手口でのにぎやかなおしゃべり、手回しのローラーを回す音、竿いっぱいに並んだ洗濯物。そんな日々の風景を、今の洗濯とくらべながら、ご家族でゆっくり思い出してみませんか。
洗う道具=たらいと洗濯板から、ボタンひとつへ
波形のきざみが入った木やプラスチックの洗濯板に、ぬらした衣類を押しつけ、上から下へとこすりつける。襟や袖口の汚れは、とくに念を入れてゴシゴシとこすりました。たらいの水はすぐに濁り、何度も汲みかえながらの作業です。
今は洗いからすすぎまで機械が順番にこなし、ふたを閉めれば人の手はほとんどいりません。あの板をこする手の動きを、覚えていらっしゃる方も多いはずです。
洗剤=固形石けんと洗濯のりから、一粒のジェルボールへ
四角い固形石けんを手に持ち、汚れた部分にすりつけて泡立てる。襟元のしつこい汚れには、石けんをたっぷりつけてから洗濯板にかけたものです。ワイシャツやシーツをぴんと仕上げたいときは、洗濯のりを溶かした水にくぐらせて糊づけもしました。
今はキャップで計る手間もいらないジェルボールを、ぽんと一粒入れるだけ。洗剤を測ったり溶かしたりという、あのひと手間も遠い記憶になりました。
絞り方=手でねじる、ローラーに通す、から、まかせるへ
大きなシーツや作業着は、両手でぎゅっとねじっても水がしたたり、絞りきるのは重労働でした。やがて二本のゴムローラーの間に衣類を通し、ハンドルをくるくる回して水を押し出す絞り器が活躍します。指をはさまないよう気をつけながら回したものです。
今はボタンひとつで高速回転の脱水までひと続き。絞るという作業そのものを、すっかり機械にゆだねられるようになりました。
干す場所=竿の外干しから、浴室乾燥や乾燥機へ
庭先やベランダに渡した竹竿や金属の竿に、洗濯ばさみやハンガーで衣類を並べていく。お日さまのにおいのする乾いた洗濯物を取りこむのは、気持ちのよいひとときでした。とはいえ、急な雨に慌てて駆けこんだ経験は、どなたにもあるでしょう。
今は天気を気にせず室内に干せ、浴室乾燥や乾燥機を使えば、洗濯から乾燥までひとつづきに済ませられます。
作業の場所=井戸端のにぎわいから、一人静かな洗面所へ
井戸や共同の水場に近所の人たちが集まり、洗濯をしながらの世間話。「井戸端会議」という言葉も、こうした風景から生まれました。手を動かしながら、その日のできごとや町のうわさを語り合う。洗濯は家事であると同時に、人と人とがふれあう場でもありました。
今は家の中の洗面所で、自分のペースで静かに進められます。便利になった一方で、あのにぎやかな声が懐かしいという方もいらっしゃるでしょう。
手間とお知らせ=冷たい水と自分の見張りから、設定とブザーへ
真冬の朝、井戸の水や水道の水はしんと冷たく、手はすぐに赤くなり、かじかんで思うように動きません。それでも家族の衣類を洗わねばと、息を白くしながら手を動かしたものです。洗い終わりの頃合いも、つきっきりで見計らって取り出していました。
今は温水で洗える機種もあり、タイマーで仕上がる時刻を決めておけば、その間に別の用事を済ませられます。終わればメロディやブザー、スマートフォンへの通知が知らせてくれて、つきっきりでいる必要もなくなりました。
たらいと洗濯板の時代から、ボタンひとつの今へ。洗濯のしかたは大きく変わりましたが、家族の衣類を清潔にととのえたいという気持ちはいつの時代も変わりません。冷たい水に手を赤くした日のこと、竿いっぱいに揺れる洗濯物、井戸端のにぎやかな声。そんな思い出のひとつひとつが、暮らしを支えてきた証です。
「あの絞り器、よく使ったね」「冬は本当に冷たかった」。この記事をきっかけに、ご家族でそんな昔話に花を咲かせていただけたら、これほどうれしいことはありません。