夏の夕方、日が少しかたむいてくると、縁側に腰かけて団扇であおぎながら風を待った。そんなひとときを覚えていらっしゃる方も多いはずです。障子を開け放ち、庭に打ち水をして、風鈴の音を聞きながら過ごす時間は、あの頃の夏の当たり前の風景でした。
縁側は、家の中と外をやわらかくつなぐ不思議な場所でした。腰かければ庭が見え、通りかかったご近所さんと自然に言葉を交わせる。今の住まいはエアコンやベランダが主役になりましたが、くつろぎ方を昔と今で並べてみると、変わったものと変わらないものが見えてきます。ご家族での昔話のきっかけに、どうぞゆっくりお読みください。
夕涼みの過ごし方=縁側の団扇と、今のエアコン
夕方になると庭や玄関先に打ち水をして、地面から立ちのぼる涼しさを待つ。障子や雨戸を開け放って風の通り道をつくり、蚊取り線香をたいて、うちわ片手に腰を下ろす。ラムネや冷やしたスイカを縁側に並べた夏もあったでしょう。風鈴が鳴るたび、少しだけ涼しく感じたものです。
今はリモコンひとつで部屋がすっと涼しくなりますが、風を待つあの時間ならではのゆったりした感覚を、懐かしく思い出す方もいらっしゃるはずです。
内と外をつなぐ場所=縁側と、ベランダ・ウッドデッキ
縁側は、靴を履かずに外の空気に触れられる、ちょうどよい居場所でした。腰かけて庭を眺めたり、寝転んで昼寝をしたり、お茶を飲みながらぼんやりしたり。来客があれば、あがってもらう前にまず縁側で一息、ということもありました。
今のお住まいでは、ベランダに椅子を置いて夕涼みをしたり、ウッドデッキにテーブルを出して庭を眺めたりと、形を変えて「内と外の中間」を楽しむ暮らしが続いています。呼び名や作りは変わっても、外の空気を感じながらくつろぎたいという気持ちは、昔も今も同じなのかもしれません。
ご近所づきあい=縁側越しの立ち話と、今のやりとり
縁側は道や庭に面していたので、外を歩く人と自然に目が合い、「暑いですねえ」から会話が始まりました。回覧板を届けにきたご近所さんが、そのまま縁側に腰かけてお茶を一杯、なんてこともよくあった光景です。子どもたちの様子や畑の作物の話、季節のあれこれを、垣根越しに気軽に交わせる距離感がありました。
今は住まいの造りが変わり、やりとりの手段もスマートフォンのメッセージなどへ広がりましたが、ご近所と声をかけ合う温かさそのものは、形を変えて受け継がれています。
家事の場としての縁側=洗濯物たたみと、今の室内干し
日当たりのよい縁側は、家事にちょうどよい場所でもありました。取り込んだ洗濯物を陽の匂いごとたたみ、ざるにのせた梅干しを縁側に並べて天日に干す。大根やらっきょうを漬ける支度をしたり、乾物を広げたりと、季節の手仕事の舞台になりました。腰かけて作業をすれば、庭を眺めながらのんびりと手を動かせたものです。
今は天候を気にせず室内で干せる部屋干しや、ふんわり仕上がる乾燥機が普及し、家事はずいぶん楽になりました。それでも、縁側で洗濯物をたたんだあの手ざわりを覚えている方は、きっと少なくないでしょう。
庭とのつながり=縁側で眺めた花火と、今の窓辺
縁側に腰かければ、庭の朝顔やあじさい、鉢植えの草花がすぐ目の前にありました。手持ち花火に火をつけて庭先で楽しんだり、遠くに上がる打ち上げ花火の音を聞きながら夜空を見上げたり。縁側は、季節の景色を眺めるための特等席でもあったのです。
今のお住まいでは、大きな窓のあるリビングや、緑を置いたベランダから外の景色を楽しむ暮らしへと形が変わりました。眺める場所は移り変わっても、ふと外に目をやってきれいだなと感じる、あの穏やかな時間は変わらず続いています。
縁側の夕涼みから今の住まいのくつろぎ方まで、昔と今を並べてみると、道具や造りは変わっても、涼を楽しみ、人と語らい、季節を眺めたいという気持ちはずっと変わらないことに気づかされます。
「うちの縁側はこんな風だった」「あの夏の花火を覚えている?」。そんな一言から、ご家族の会話がきっと弾みます。世代によって思い浮かべる夏の景色は違っても、その違いを話し合うのもまた楽しいものです。この夏はぜひ、涼しい部屋でお茶でも飲みながら、昔の夕涼みの思い出をゆっくり語り合ってみてください。